法人の税務調査において『法人事業概況説明書』がどのように活用されているのか、について税務調査専門税理士がご説明致します。
■法人の事業概況説明書はKSKシステムの入力や税務調査先選定の際に活用される
■法人の事業概況説明書中の『月別売上』は税務調査先の選定で最重要である
■法人の事業概況説明書中の『現金・通帳の管理者』についても重要な情報である
『法人事業概況説明書』とは、文字通り法人が行っている事業の概要を広く説明するための書類なのですが、
法人経営者の方や税理士にとって、法人税申告の都度『法人事業概況説明書』を作成することは大きな負荷になっています。
この法人事業概況説明書は導入当初からしばらくの間は提出が任意であり、また記載内容も簡易なものだったのですが、
法人税施行規則の改正に伴い法人税申告書の添付書類として提出が義務化されており、その記載事項も年々増加されています。
法人事業概況説明書の具体的な記載内容は下の様式でご確認いただきたいのですが、本来は税務調査時に質問検査権を行使して確認すべきでは、と感じる内容にまで拡大されています。
税制改正により提出が義務化された以上は、原則として全ての項目を漏れなく記載する必要があるのですが、現実的には記載レベルが不十分なものが多いように感じます。
今ではe-Taxが相当普及していることから、法人経営者や税理士から申告書等のデータが電子的に国税局や税務署に送信されてきます。
しかしながらe-Tax導入前は、全ての申告書等が書面にて提出されていたことから、国税局や税務署側からすると、
それらの内容を国税庁の業務システムであるKSK(国税総合管理)システムにどのようにデータベース化すべきか、という課題がありました。
本来は決算書の内容を含め全ての法人税申告書の内容をKSKシステム内に手入力すれば良いのですが、
現実的には国税局や税務署の税務調査官を総動員したとしても無理でしょう。
そこでデータベース化すべきデータの範囲を『法人事業概況説明書』に絞ると共に、当該説明書をOCR化することで、入力工数の省力化を図っているのです。
法人事業概況説明書の目的の一つは税務署側における申告書データの入力工数の省力化ではあったのですが、
現在ではe-Taxシステムの普及により、税務調査官が作業工数をかけなくても、電子データにて全項目のデータベース化が容易になっています。
法人経営者や税理士からすると、法人事業概況説明書は税務調査先の選定に使われている、という事実は重要です。
法人事業概況説明書のほとんどの記載内容は、法人の決算書や勘定科目内訳明細の内容と重複しているのですが、
法人事業概況説明書の『月別売上等』については、この説明書以外では税務調査前に把握することは出来ません。
本来、法人の売上・仕入・外注費・人件費等の月別内訳は、税務調査において質問検査権を行使し総勘定元帳等により把握することになるのですが、
税務調査官側は税務調査先を選定する際にこの月別内訳(とりわけ最終月)を確認することで、例えば
■売上や外注費等の原価の計上が期間損益の点で問題ないか
■期末棚卸高に計上漏れがないか
等を検討する際の参考計数となります。
たとえば12月決算法人で、法人事業概況説明書における11月及び12月の計数が以下の場合、
■11月の売上1000万円、12月の売上100万円
■11月の仕入100万円、12月の仕入1000万円
税務調査官は、12月分売上を除外しているか、12月分の仕入を架空計上しているか、あるいは期末棚卸の除外があるのでは、等を税務調査前の準備段階で想定すると思われます。
また法人税業概況説明書の『現金・通帳の管理者』が代表者本人や代表者の妻など親族になっていると、
同じく税務調査前の準備段階で、『この法人は内部統制が不十分では』との先入観を税務調査官に抱かせてしまうかもしれません。
このように法人の税務調査において、『法人事業概況説明書』は事前の準備段階において積極的に活用されているのです。
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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