税務調査において法人のPL(損益計算書)だけでなくBS(貸借対照表)の勘定科目、とりわけ代表者借入金に着目する税務調査官は優秀です。今回は法人に対する税務調査における代表者借入金の重要性について税務調査専門税理士がご説明致します。
■代表者借入金は売上除外等で不正に得た資金を法人に還流する際に利用されやすい
■代表者借入金残高が多いと、税務調査において法人の内部統制面も疑われやすい
■法人代表者の可処分所得に切り込む税務調査官はとても優秀である
例えば代表者が法人の売上を同人の個人口座に入金することで法人帳簿から売上を除外した場合、
このことが税務調査において把握されると売上除外として法人に対し重加算税が賦課決定されるでしょう。
同様に法人帳簿上で実態の無い外注費を計上し当該支払金額について法人の代表者が現金でキックバックを受けていた場合
このことが税務調査において把握されると架空外注費として同じく法人に対し重加算税が賦課決定されます。
いずれの場合においても、このような不正経理を行ってしまうと法人内部に現金預金が流入されなくなることから
いずれにしても、不正経理で捻出し法人の簿外資金として代表者個人が留保している現金預金を法人に還流させる必要性が生じてきます。
その際に法人代表者が、税務調査でバレないと思い込んで利用してしまう勘定科目が貸借対照表の借入金勘定なのです。
つまり売上除外や架空外注費で捻出し個人としてプールしている1千万円を借入金に仮装し法人帳簿に記載することで還流することが、
しばしば法人の不正経理として行われているのです。
このような実態があるため、税務調査官は法人の貸借対照表科目の中でも特に借入金に着目するのです。
税務調査において借入金が精査される別の観点としては、代表者個人立替の経費が法人の帳簿上で借入金として未精算の状況が散見されるためです。
このように立替処理としての借入金について日々または月次レベルで清算処理が未実施である場合、
税務調査において、法人の経理処理自体が内部統制上信頼に値しないと思われてしまう可能性があります。
より具体的に税務調査の観点で換言すると、
法人の内部統制が機能してないため未精算の借入金残高については、代表者の個人的な支出が法人経費として付け替えられているのでは、と税務調査官に疑われてしまうことに繋がるのです。
法人の税務調査において、代表者借入金の増減と可処分所得とをリンクして検討する税務調査官は間違いなく優秀です。
所得税の税務調査において個人事業主の可処分所得を検討する税務調査官は多いですが、法人税の税務調査においてそのような検討を行う税務調査官は滅多に居ません。
たとえば、法人の税務調査において代表者借入金の増減と可処分所得をリンクさせた税務調査官の質問は次の通りです。
※極めて単純なケースを記していますのでご承知おき願います。
■代表者の法人からの役員報酬は年額360万円ですね。
■そのほか代表者借入金の残高が年間で200万円減っているので、代表者は法人から200万円の返済を受けたということですね。
■ということは代表者の可処分所得は年間合計で560万円となりますので、基本的にはこの範囲内で生活や貯蓄に充てているのですよね。
■次に支出面ですが銀行の通帳等で、①諸々の生活費として年間480万円の支出、②定期預金への新規預け入れが300万円、の合計額780万円の総支出額が確認されました。
■そうすると、年間合計可処分所得が560万円であるにも関わらず、年間総支出額が780万円なのは明らかにおかしくないですか。
この場合、年間可処分所得(560万円)と年間総支出額(780万円)を比べると、代表者は明らかに身の丈を超えた生活をしていますので、
税務調査官は、代表者には別途収入源があるのではと考えます。
具体的には、税務調査官は明らかに法人の不正経理(売上除外、架空外注費、個人的経費の付け込み等)を疑うことになるでしょう。
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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