令和5年7月現在、海外取引所での暗号資産(仮想通貨)の利確分について、税務調査のご相談が寄せられています。
今回は暗号資産(仮想通貨)のうち海外取引所での運用について、深度ある記事を書いておりますのでぜひご一読ください。
■仮想通貨が無申告で税務調査になると加算税や延滞税といったペナルティがある
■暗号資産の税制改正で①支払調書が法定調書化、②雑所得(総合課税)が明文化
■海外の税務当局との間で情報交換が活発化しており海外取引所情報も交換されている
税務調査を専門としている私の税理士事務所にも、暗号資産(仮想通貨)で利益を得た個人投資家の方に対する税務相談が非常に多いです。
中には「億り人(オクリビト:1億円以上の利益を得た個人投資家)」となられた方もおり羨ましいかぎりですが、税金(確定申告)のことを考えると悩みは尽きないのでしょう。
税務調査専門税理士である私に相談されるぐらいですから、個人投資家の皆さんが気にされているのは、
「税金を払わなかったり確定申告をしないと税務署(国税庁)から税務調査官が来るのでしょうか?」ということなのかもしれません。
私自身も弱小個人投資家ですので皆さんの不安な気持ちはとても切実に理解できます。
税務調査専門税理士として税務相談を受けていると、暗号資産(仮想通貨)についてはある程度相談内容はパターン化されているように感じます。
具体的には、
■節税したいのですが良い税金対策はないですか?
■確定申告しないと税務署(国税庁)にバレる?バレない?
■何か良い抜け道(裏技)はないですか?
■法人化(法人設立)すると税金は安くなりますか?
■バイナンス(Binance)等の海外取引所はバレる?バレない?
■海外移住をして非居住者になれば確定申告不要?
■利益が20万円以下なら申告不要で税金かからないのか?
■ビットコイン以外のアルトコインなら確定申告不要か?
等々多岐にわたります。
個人が暗号資産(仮想通貨)の売買等で得た利益は「雑所得」と言われる所得の種類に分類され、総合課税の適用を受けます。
そもそも雑所得とは、所得税法に規定されている様々な所得の種類の中でも、「その他のもの」的な扱いとなっており納税者にとっては最も酷な課税となります。
所得税と住民税を合算すると、なんと最大で約55%の税率ですし、個人事業主や個人投資家の方など厚生年金等の社会保険に加入されていない場合は、
所得税・住民税のほか国民健康保険や国民年金に係る保険料負担も非常に大きくなります。
令和5年7月時点での暗号資産(仮想通貨)の値動きは随分と安定してきましたが、
令和2年後半から令和3年5月までの間はほぼ全ての暗号資産(仮想通貨)が急騰しましたので、
ビットコインのみでなくイーサリアムやリップル等を比較的我慢強く保有していた個人投資家の方の中には、
最高税率の55%の税金(利益の半分以上が税金)がかかる方も相当数いらっしゃると思います。
半分以上が税金になるなんて考えると、利益を確定(利確)させるタイミングが非常に悩ましいのではないでしょうか。
この点は、株式、先物、FX等の投資に係る所得が同じ雑所得でも源泉分離課税または申告分離課税として、
一律約20%(所得税と住民税の合算額)の税率に抑えられている点と比較すると、
暗号資産(仮想通貨)による利益に対する税金がどれだけ高いのかご理解いただけると思います。
まるで野球、サッカー、ゴルフなどのプロスポーツ選手のような高額納税者です。
暗号資産(仮想通貨)の利益を確定(利確)させたことで申告義務が生じた以上は、
当たり前ですが確定申告を行う必要があります。
ネット上には様々な情報が氾濫しており、
税金対策としてギリギリのスキームで何とか租税回避を図りたいと知恵を絞っている方も少なからずいらっしゃるようです。
暗号資産(仮想通貨)については、引き続き税務署(国税庁)においてより具体的な取扱いが継続検討されると思いますが、
裁判所の判例や国税不服審判所の裁決事例があまり積み重なっていませんので、現時点で軽々な判断をすることはリスクが大きいと感じます。
繰り返しになりますが、個人投資家の方が得た暗号資産(仮想通貨)に係る売買等の利益が所得税法上「居住者の雑所得」に該当する以上は、
確定申告をせず税金を払わない、という選択肢はあり得ないのです。
税金の計算上は、売却収入から取得原価を差し引いて所得金額を算出した上で、当該所得金額に適用される税率を乗じ所得税額を算出します。
さらにその結果を確定申告書に反映して、法定申告期限までに税務署(国税庁)に提出するとともに税金を納める必要があるのです。
法定申告期限までに確定申告書を提出せず申告義務を果たさない状況で税務調査の対象になってしまうと、
ペナルティとして、本税額の15%若しくは20%の無申告加算税(申告しなかったことに仮装隠ぺいの事実があれば本税額の40%の重加算税)、
さらには納税しなかった期間に応じ延滞税が追加的に賦課決定されてしまいます。
株式、先物、FX等については、その取引仲介業等に対し、利益を確定(利確)した顧客の取引情報に係る資料を支払調書として税務署(国税庁)に提出することが、
所得税法等の法律により義務付けられています。このように法律により提出が義務付けられていることから、これらの支払調書は法定資料と言われています。
では、暗号資産(仮想通貨)交換業者に対してはどうでしょうか?
結論から言うと、コインチェック、ビットフライヤー等の国内取引所を運営する暗号資産(仮想通貨)交換業者についても、
令和3年以降分からにはなりますが、利益を確定(利確)した顧客に係る支払調書を税務署(国税庁)に提出する法律的な義務が課されるようになりました。
つまり暗号資産(仮想通貨)の利確についても法定調書化されたのです。様式は下記をクリックしてください。
▶国税庁ホームページ(先物取引に関する支払調書:暗号資産デリバティブ取引)
逆に言うと、令和2年以前分であれば暗号資産(仮想通貨)交換業者が支払調書を税務署(国税庁)に提出する法律的な義務はないことになります。
しかしながら税務署(国税庁)においては、法律の根拠に基づく法定調書に代表されるような資料収集方法とは別に、
任意資料と言われるものについて相手方の協力を得ることで積極的に収集しています。
仮に国内取引所を運営する暗号資産(仮想通貨)交換業者が税務署(国税庁)から、
「令和2年分以前のお宅の顧客の取引情報を根こそぎデータでいただきたい。」と依頼されたらどう答えるでしょうか。
国内取引所を運営する暗号資産(仮想通貨)交換業者は、同じお役所である金融庁による登録(お墨付き)を得て事業を行っていることから、
税務署(国税庁)からの任意の資料提出依頼だったとしても、断ることが出来ないのは明らかでしょう。
話は変わりますが、
各国内取引所を運営する暗号資産(仮想通貨)交換業者のシステムは、顧客の取引履歴をCSVファイルでダウンロード出来るようになっています。
以前は、甚だ使い勝手が悪かったため確定申告書を作成する際、つまり税金の計算をする際に随分と苦労したものです。
納税者は適正な申告義務を果たす必要があることから、
よりユーザーフレンドリーなシステム開発が実施されれば良いのに、と長いこと思っていたのですが、
現在では各社すでに改善済であり、随分とユーザーフレンドリーなものとなっています。
また個人的には、暗号資産(仮想通貨)市場の公正な発展と公平な税負担を実現するために、
早期に一律約20%の税率(申告分離課税)に税制改正されることを期待して強く期待しているのですが、
現実的には令和2年度税制改正において、他の雑所得とは損益通算不可なものとして総合課税の対象であることが法律上明文化されただけの状況です。
バイナンス(Binance)は、正式な本社所在地を公表していないようですが、
海外取引所であることから国家権力による突然の閉鎖リスクも考えないと怖いところです。
しかしながら現時点においてバイナンスは手数料の安さと取引規模の大きさのため、個人投資家にとって非常に魅力的な海外取引所と認識されています。
さらに一定額以上の出金手続を行わない限りにおいては、本人確認書類の提出義務が無いようです。
また最近ではバイビット(Bybit)という海外取引所が日本人にとって非常に使い勝手が良い、と好評のようです。
この点を捉え相談に来られた個人投資家の方も、海外取引所の利用は税金対策としては最強であり究極の抜け道(裏技)であると話す方がいらっしゃるのですが、
果たして本当なのでしょうか?海外取引所だから確定申告をしない、つまり日本において申告義務を果たさなくて大丈夫なのでしょうか。
まず、このような海外取引所に対し日本の税務調査官が顧客の情報提供を求めることが現実的に可能なのか、を考えることが重要です。
もちろん理屈上は可能です。国と国との間においては租税条約が締結されており、またOECDの場においても租税回避行為に対する各国間での情報交換が盛んに議論されています。
まさに時代の流れ的にも各国間の情報提供について後押しされているのではないでしょうか。
では日本の税務調査官が、海外の税務当局に対し海外取引所の情報提供を求めた場合に、その相手国側はどう対応するでしょうか。
正直この点については国益を睨んだ様々な駆け引きがあるでしょうから何とも言えません。
ただ一般論ですが、他国からあることを依頼された結果自国の国力(税収)が弱くなるようなことを進んで引き受ける国はあまりない、
とは言えるかもしれません。
本記事で私が申し上げたいことは、海外取引所での利確だとしても日本の居住者である以上は海外取引所分も含め確定申告する必要がある、ということです。
また、バイナンス(Binance)等の海外取引所に対し入出金処理をする際には、
海外に銀行口座を保有していない以上は、日本の国内取引所を経由してビットコイン等の暗号資産(仮想通貨)で送受金を実施する必要があります。
したがって、日本の税務署(国税庁)からすると、バイナンス(Binance)等の海外取引所での運用成績自体は不明だったとしても、
海外取引所と国内取引所との間におけるビットコイン等の暗号資産(仮想通貨)による送受金については税務調査官の白日の下に晒されているということです。
税務調査を受けた場合、この点については当然厳しく問われることになることから、
海外取引所における損益を含め適正な申告義務を果たすべきなのは言うまでもありません。
最後に、私の税務調査専門税理士事務所に対し「ある海外取引所に対し出金依頼をした際に20%の追加入金を求められた。これは詐欺でしょうか?」
とのご相談が令和2年から令和5年の現在まで多数寄せられています。海外取引所で暗号資産(仮想通貨)の運用を行う際にはくれぐれも慎重にご判断ください。
※下記は、仮想通貨(非居住者・海外移住スキーム)ついての別記事です。ぜひ併せてご覧ください。
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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