長年税務調査官をしていた経験上、この個人事業主の確定申告書は税務調査の対象になりやすいな、と感じることがあります。
今回は、税務調査官が来たくなる個人事業主・フリーランスの確定申告書の特徴について専門税理士がご説明します。ぜひご覧ください。
■税務調査先の選定は昨今シシテム的(機械的)に実施されている
■個人事業主が事業開始から3年経過すると税務調査の対象となり始める
■将来重加算税を回避するため、個人事業主の場合は売上に注意すべき
税務署内で個人事業主・フリーランスの税務調査先を決めているのは、個人課税部門の統括国税調査官と言う管理職の税務調査官です。
私が税務職員になったのは平成4年なのですが、当時の上司である統括国税調査官は毎日税務調査先の選定作業をしていました。
現在では事情が異なり、基本的に税務調査先の選定はシステム任せであることが多いです。
税務調査官が利用する税務署の端末はKSKシステムと言われる国税庁の基幹システムと繋がっており、
このシステム内に税務調査先の選定を支援する財務分析機能が実装されているのです。
具体的には、個人事業主やフリーランスの所得税確定申告書がデータベース化されており、
同規模同業種との比較、連年の売上総利益率(いわゆる粗利)や所得率、など様々な観点より計数的に「税務調査必要度判定」がされています。
したがって、昔のように統括国税調査官の鋭い眼力でもって税務調査対象となる個人事業主・フリーランスを探す、
ということは基本的に今はありません。
この点は元統括税務調査官の税理士としては正直寂しい気持ちになります。
また最近では、AI(人工知能)を活用した税務調査先の選定、というのが話題になっています。
詳細はわかりませんが、利用する税務調査官側にとってうまくワークするようなものが出来上がるのでしょうか?
申告売上が毎年900万円台★★★
これは格付すると星3つです。
税務調査の可能性が最も高いのは、毎年の申告売上が1,000万円弱の個人事業主やフリーランスの申告書。私的にはこの一択だと思っています。
年間売上が1,000万円弱ですと、典型的なケースとしては『人を雇っていない1人親方の個人事業主やフリーランス』が該当するのではないでしょうか。
これはもうお分かりだと思うのですが、年間売上1,000万円というのは『ある税金』の申告義務の有無に関わってきます。その税金とは、
消費税です。
簡単に言うと、2年前の年間売上が1,000万円を超えている場合、個人事業主やフリーランスはその年に消費税の申告義務が生じるのです。
税理士として感じるのは、1,000万円という基準は非常に微妙ということです。
フリーランスを含む多くの1人親方的な個人事業主ですと、どんなに頑張っても稼げる限界があります。
もちろん業種・業態で異なるのでしょうが、
その上限が年間売上1,000万円ということは十分にあり得るからです。
真面目に働いて適正に申告しているのに、
年間売上がたまたま1,000万円弱の個人事業主やフリーランスは税務署に疑われてしまうのです。
このような方は多数いらっしゃることから正直気の毒な気がするのですが、
これまでに年間売上900万円台で申告したがゆえに、税務調査官に疑われ税務調査対象となった個人事業主やフリーランスの方を税理士としてたくさん見てきました。
ちなみに、この年間売上1,000万円の基準は、はるか昔に消費税が導入されてから徐々にハードルが下がってきています。
つまり消費税の申告義務が厳しくなってきている、ということです。
具体的には、平成15年以前においては売上3,000万円が消費税申告義務の分かれ道だったのですが、
益税の問題が盛んに議論されるようになり、平成16年4月からは売上1,000万円が基準となるように税制改正されたのです。
ここでは内容に触れませんが先般の更なる税制改正によりインボイス制度が導入されたことにより、
令和5年10月からは売上が1,000万円をはるかに下回る個人事業主やフリーランスの大多数が、
実質的に消費税の申告をしないといけない状況になることが想定されています。
このインボイス制度と言われ税制改正は、
ある意味消費税率が8%から10%になったこと以上にインパクトがあるのですが、未だにその詳細をご存じない個人事業主・フリーランスの方が多いように感じます。
話しは戻りますが、ほとんど全ての個人事業主やフリーランスの方は、全ての売上を真面目に計上し適正に申告しているのですが、
残念ながら、僅かではありますが消費税の申告義務を逃れたいがために、
毎年の売上を意図的に除外して、1,000万円以内で申告されている個人事業主やフリーランスの方がいらっしゃるのも事実でしょう。
税務調査専門税理士としてお伝えしたいのは、
個人事業主やフリーランスの方が意図的に毎年の売上を1,000万円以内にして申告した場合、
税務調査を受けると想定をはるかに超える多額な追徴税額になる、ということです。
ましてや重加算税対象となり7年間もさかのぼられてしまうと、住民税を含めたトータルの税負担額は軽く1,000万円を超えることでしょう。
税務調査専門税理士に対し早めのご相談が大切なのは言うまでもありません。
個人事業主やフリーランスの方が税務調査を受けると、平均でどのくらいの税金が追徴されているか、については以下の記事をご覧ください。
以下では、格付が星2つか星1つのものをご紹介致します。
過去に重加算税を賦課されている★★
過去の税務調査で重加算税を賦課されている個人事業主やフリーランスは、どうしても税務調査のサイクルが短くなってしまいます。
フリーランスを含む個人事業主であれ法人の場合であれ、長くても5年以内に再び税務調査となることが多いです。
消費税還付申告書★★
個人事業主等が一定額以上の消費税還付申告書を提出すると、高い確率で税務調査の対象となります。
場合によっては敢えて税務調査扱いとせず、電話や郵送による契約書等関係書類の提出だけで終わることもありますが、
還付金額が大きい申告書を提出した場合には高い確率で税務調査扱いになってしまいます。
この点は、個人事業主等のうち輸出業や不動産投資家の方などは特に気になるところだと思います。
税務署が資料を保有している★★
税務署や国税局の税務調査官は、様々な機会を捉え個人事業主やフリーランスの情報を収集しています。
個人事業主等について売上除外や架空原価に繋がるような資料を入手すると、断然税務調査の可能性が高くなってしまいます。
このような資料は、取引先や銀行等の金融機関で入手することが多いのですが、中にはタレコミや税務調査官が飲み屋さんに行った際に収集することもあります。
開業届から3年経過★
個人事業主やフリーランスが開業届を提出してから3年経過すると、一つの区切りとして税務調査の対象となることがしばしばあります。
逆に、税務調査による追徴税額と行政コストの問題、つまりコスパ的なことを考えると事業を開始して2年以内に税務調査が来ることはほとんどないでしょう。
事業を開始して2年以内に税務調査が来る場合には、税務調査官側が個人事業主やフリーランスについて重要な資料を保有している可能性があります。
税理士の署名押印が無い申告書★
これはどちらかというと個人事業主等よりも法人の場合に顕著です。
信頼性の問題として、「税理士が関与した申告書の方が適正だろう」と税務調査官が感じるのは事実でしょう。
また税務調査官側の事情として、
毎年2月中旬から3月下旬までの確定申告期間中は税理士関与のある申告書については税務調査を実施しない、という暗黙のルールがありますので、
この点だけを考えても、やはり税理士の署名押印の無い申告書の方が税務調査の対象になる可能性が高い、と言えるのではないでしょうか。
手書きの申告書★
会計ソフトを使用していれば単純なミスはほぼ無いでしょうが、個人事業主やフリーランスご自身が手書きで申告書を作成すると、
どうしても税率の適用誤り、記入欄の誤り等々が散見されます。
簡易な誤りであれば、通常は個人事業主等に対し電話などで指摘するだけで終わるのですが、
誤りが多額だった場合などは税務調査扱いになることがあります。
申告売上が毎年4,990万円★
これは個人事業主やフリーランスの方の消費税申告方法の問題と繋がっています。
消費税の場合、「簡易課税制度」と言われる申告方法を適用した方が通常であれば納税額が少なくて済むのですが、
この申告方法を適用するには、個人事業主等の2年前の売上が5,000万円以下であることが必須なのです。
そのため個人事業主やフリーランスが連年の申告売上を5,000万円弱で提出すると、
たとえ売上を正しく申告していたとしても税務署の税務調査官の目についてしまうことがあるのです。
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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