■令和4年の最新統計上、法人の確率は1.3%・個人の確率は0.5%と頻度は低い
■一定規模以上の稼働法人の場合は5年周期・間隔、個人の場合は一生に1度?
■税務調査の確率・頻度は行政コスト(予算)の兼ね合いで決定される
税務署や国税局が実施する税務調査とは、法人経営者や個人事業主の方あるいは税務調査の相談や立会いを行なう税理士にとっては非常に身近なものであるにも関わらず、
一般の会社員、主婦の方または学生の方々からすると税務調査は極めて遠い存在であり、その実像については今一つはっきりしない、というものではないでしょうか。
税務調査自体がこのように遠い存在であることから、その頻度や確率についても、「そんなことないのに」という誤った情報が散見されます。
実際にインターネット等を覗いてみると、なるほど上手く税務調査の頻度や確率の真実を突いているなと感心する記事(主として税理士が作成)がある一方で、
こんなことは絶対あり得ないといった類の都市伝説レベルのものまで、様々な情報が氾濫している状況です。
費用や報酬が発生しない無料の情報源の怖さ・危うさを実感してしまいます。
税法の解釈など複雑な議論は税理士等の専門家に任せるとしても、法人経営者や個人事業主の方においても、税務調査ってどのぐらいのインターバルで実施されるのか、
すなわち税務調査に係る頻度や確率について正確に理解することは、ビジネスを行う上で非常に有益なものになると考えます。
このような税務調査ですが、税務調査専門の国税OB税理士としてしばしばご相談をいただくのが、
税務調査ってどの程度の確率あるいは頻度で実施されているのでしょうか、という問い合せです。
今まさにこの記事を読んでいただいている法人経営者や個人事業主の方若しくは税務に関する相談を受ける立場の税理士先生でさえ、
果たしてどのくらいの方が税務調査若しくは税務調査の立会いを経験されているでしょうか。
専門家でさえ正確な税務調査件数(あるいは確率や頻度)について理解されている方は少ないのではないでしょうか。
実は毎年国税庁においては税務調査の確率や頻度に関する情報として
◆税務調査の件数(実調割合)
◆税務調査で誤りがあった件数(非違割合)
◆税務調査で不正があった件数(不正割合)
などを毎年記者発表するとともに国税庁ホームページにおいてもそれらを公表資料として掲載しています。
税務調査の頻度や確率について詳細をお知りになりたい方は、下記のリンクより直接国税庁のホームページにてご確認ください。
ここ数年は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言等の影響もあり、
とりわけ東京、神奈川・横浜、千葉、埼玉などの首都圏を中心に税務調査件数が対前年比で70%~80%に留まっていましたが、
令和4年11月から12月に公表された最新の税務調査件数の資料をみると、
コロナ禍の時期と比較すると税務調査件数が回復基調なのがわかります。
次に具体的な税務調査割合、すなわち税務調査の確率についてお話いたします。
法人の場合は、令和4年の最新情報による申告件数が約306万件ですので、
令和4年12月に公表された法人に対する実地での税務調査件数が約4.1万件であることを考えると、法人の税務調査の確率は概ね1.3%(4.1万件/306万件)となります。
一方で個人事業主の場合は、同じく令和4年の最新情報による申告件数(事業所得及び不動産所得のみを集計)が約657万件ですので、
令和4年11月に公表された個人に対する実地での税務調査件数が3.1万件であることを考えると、個人の税務調査の確率は概ね0.5%(3.1万件/657万件)となります。
次に、税務調査を受けた法人や個人事業主のうちどの程度の確率(頻度)で申告漏れにより修正申告書の提出が必要になっているかというと、
これは昔から概ね80%の確率(頻度)でほぼ変わっていません。
すなわち概ね80%の確率(頻度)で税務調査官より何らかの誤りを指摘されることになるのです。
さらに、税務調査を受けた法人や個人事業主のうちどの程度の確率(頻度)で重加算税対象と認定されているかというと、
これも昔から概ね20%の確率(頻度)でほぼ変わっていません。
すなわち概ね20%の確率(頻度)で税務調査官より仮装隠ぺいの事実に基づく不正計算有りと認定されているのです。
なお最新の申告状況について詳細をお知りになりたい方は、下記のリンクより直接国税庁のホームページにてご確認ください。
先程までとりわけ確率の面でお話させていただきましたが、税務調査のインターバル(頻度)という面では次のように説明できると思います。
◆法人の場合、税務調査を受ける確率が1.3%程度ということは概ね75年に1回程度の頻度で税務調査の対象として循環してくる。
◆個人事業主の場合、税務調査を受ける確率が0.5%ということは概ね200年に1回程度の頻度で税務調査の対象として循環してくる。
しかしながらここでまずご説明したいのは、「税務調査が何年周期(つまりどの程度の頻度)で来るのか」について説明すのは非常に難しいということなのです。
どういうことかというと、
■売上実績10億円の法人と売上実績1千万円の法人
■事業収入が100万円のフリーランスと事業収入が3000万円の個人事業主
■過去に重加算税が賦課された法人と毎年適正申告している法人
■事業開始1年目の個人事業主と事業開始10年目の個人事業主
等々の違いがあることから一律に「税務調査は○年周期(〇年の頻度)で来る」と論じられないのは容易に想像出来ると思います。
話は変わりますが、税務調査を受けると過去何年分さかのぼって調べるのか?については下記の記事をご覧ください。
私が国税局管内の税務署統括国税調査官として税務調査先の選定や税務調査の実施・指導等を経験してきた感覚からすると、
売上実績2億円程度の標準的な規模の法人ですと、税務調査の頻度(確率)は概ね5年の周期・間隔ではないかと思われます。
また年間収入が1000万円前後の個人事業主の場合は、事業開始から廃業までの間に税務調査が1回あるかないか程度の頻度(確率)、ではないでしょうか。
ただし法人の場合で過去に重加算税の賦課決定を受けていると、3年の周期・間隔で再び税務調査の対象となったりしますし、
逆に毎年適正な申告を行い優良申告法人になると10年以上も税務調査が来ないこともあります。
個人事業主の場合も過去に重加算税を賦課決定されると、5年~10年の周期・間隔で再び税務調査の対象となることが多いと思います。
次に概ね80%の確率で申告漏れにより修正申告書の提出が必要になる点について若干ご説明させていただきます。
税務調査の対象となる税目は何種類あるかご存じでしょうか。
①法人の場合は法人税
②個人事業主の場合は所得税
③消費税
④源泉所得税
⑤印紙税
といった多くの税目が税務調査の対象となっています。
税務調査官の目線からすると、税務署内での自らの人事評価を考えた場合は当然に法人税及び所得税に主眼を置いた税務調査ということになるのですが、
とりわけ修正申告書の対象となるような法人税や所得税の誤り(非違)が何もない場合には、
消費税、源泉所得税や印紙税についても細かく確認する税務調査官が居ます。
このような税務調査官の努力(?)もあり、税務調査において法人税や所得税の誤りが概ね80%把握されるのですが、
法人税や所得税のみでなく消費税、源泉所得税及び印紙税といった税目も含めて考えると、
これらの税目のうちどれか一税目でも誤り(非違)がある確率という意味では90%を超えてくると思われます。
ただし、これらの確率は東京・神奈川・横浜・千葉・埼玉等の首都圏におけるものであり、全国的には若干異なる結果になるのかもしれません。
言うまでもなく、法人であれば原則として自らが選択した決算期終了後2か月以内に、個人事業主の方であれば3月中旬を期限として、
所轄の税務署長に対し法人税、所得税若しくは消費税の確定申告書を提出するとともに必要であれば納税をおこなうこととされています。
確定申告書を収受した税務調査官は、これらの確定申告書が正しいかどうか確認作業を実施するのですが、その究極の確認作業が税務調査と言われるものです。
すなわち確定申告書は、あくまで法人経営者若しくは個人事業主の方が保有する帳簿書類や証憑類を基礎として作成された成果物にすぎないのです。
そこで、納税者に対する質問検査権という権限を有している税務署や国税局の税務調査官は税務調査を実施することで
確定申告書の基礎となった帳簿書類や証憑類、あるいは必要であれば取引先や銀行等の金融機関を確認することで、確定申告書の妥当性を確認したいのです。
しかしながら税務調査については相当の作業工数(行政コスト)が必要であることから、
現実的には毎年実施することは困難であり、〇年おきなど間隔を空け予算の範囲内で周期的に実施されているのが現状なのです。
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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