法人に対する税務調査で問題となる認定賞与と使途秘匿金課税について、支出したリベートと絡めて税務調査専門税理士が解説致します。
■使途秘匿金課税は赤字法人や繰越欠損金が残っていても税負担が生じる
■認定賞与でなく代表者貸付金となるよう税務調査官に丁寧に説明する
■リベート支払がある場合は得意先との今後の関係を最優先で考慮すべき
今回の記事は法人経営者様向けに書いています。
法人に対する税務調査では税務調査官が特に着目する勘定科目があります。
『売上』は当たり前すぎるので除くと
『外注費、業務委託費』などと言った勘定科目による支払いが多額だと
税務調査官は興味津々で内容を確認するでしょう。
理由としては、これらの勘定科目には『支払った相手先の名前や住所を絶対に言えない支出』を混入させやすいからです。
典型的な例は、大切な得意先の担当者個人に対する『現金によるお礼』、もっと分かり易く言うと袖の下(リベート、賄賂)です。
税務調査官により、袖の下(リベート、賄賂)としての支払120万円を外注費に仮装して損金計上しているのが把握された場合
トータルの追徴税額は
実効税率を30%とすると架空外注費として否認され法人税関係の税額が約36万円(120万円×30%)発生しますし、
さらに支払った相手先を税務調査官に言えない場合には
使途秘匿金課税の対象として袖の下(リベート、賄賂)の額120万円の40%である48万円の法人税額が追加で発生してしまいます。
合計するとなんと84万円(36万円+48万円)ですから、袖の下(リベート、賄賂)の額である120万円のなんと70%相当額が税金として追徴されるのです。
会社として存続していくためには相手先を言えない支払は必要悪なのかもしれませんが、さすがにこの税負担は厳しいものです。
なお、この使途秘匿金課税は例え法人決算が赤字であったとしても追徴の対象になってしまうのです。
恐るべし、使途秘匿金課税です。
しかしながら法人に対する税務調査の現場では
税務調査官から使途秘匿金課税の適用を受けることはほとんどありません。
なぜか
それは法人経営者が『120万円は自分が遊興費として使ったんです』と税務調査官に説明するからです。
本当は得意先担当者に対する袖の下(リベート、賄賂)なのですが、使途秘匿金にすると税負担が大きくなってしまうので
『遊ぶ金欲しさに自分で使ってしまった』ということで税務調査を終結させることがしばしばあるのです。
そうすると税務調査での処理は
『使途秘匿金』ではなく『代表者に対する認定賞与』ということになります。
この場合は認定賞与とされた分だけ代表者個人としての所得が増えたことになりますので
法人代表者自身の所得税の負担が発生することになってしまいます。
そしてこの法人代表者の所得税負担の増加は、
実務的には源泉徴収義務者である法人に対する源泉徴収漏れとなるのです。
さて法人代表者に対する認定賞与とされた場合の税負担ですが
前述の使途秘匿金課税と同様に、架空外注費として否認され法人税関係の追徴税額が約36万円であることに変わりはないのですが
夫人代表者の認定賞与とされた120万円について所得税(累進税率10%と仮定)と住民税(概ね一律10%)の合計で約20%
すなわち24万円が法人に対する源泉所得税の追徴税額として加算されることになってしまいます。
そうするとトータル追徴税額は60万円(36万円+24万円)になりますので使途秘匿金課税よりは少なくなるのですが
出来れば認定賞与も避けたいところです。
税務調査に強い専門税理士ですと
法人代表者に対する認定賞与でなく代表者貸付金として処理をしてください、と税務調査官に申し出ることが多いです。
ハードルはそれなりに高いことが多いですがトータルでの税負担に雲泥の差が生じることから、ぜひ税務調査に強い税理士に任せるべき点だと思います。
どうしても袖の下(リベート、賄賂)が避けられない法人経営者の中には、実務的にはご自身の役員報酬を増額しポケットマネーで支払っている方もいます。
増額した役員報酬のなかから自分のポケットマネーで支払う分には、少なくとも法人に対する税務調査という観点では問題になりませんので。
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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