税務調査先の選定基準・選び方

今回は税務調査先の選定基準、平たく言うと「選び方」について専門税理士がご説明致します。

 

結局のところ税務調査先を選定するのは人ですから、選定する人次第で税務調査の対象者が左右されることになります。

【結論】税務調査先の選定基準(選び方)は統括国税調査官次第である

■税務調査先を選定しているのは統括国税調査官という管理職の税務調査官

■税務調査先の選定基準(選び方)は様々だが現在ではシステムの活用が主流

■重要な資料の存在は税務調査先選定の基準(理由)として最強である

税務調査先を選定するのは統括国税調査官

税務調査の対象となる個人事業主や法人の選定は、税務署の個人(法人)課税部門の統括国税調査官と言われる税務調査官が行います。

 

統括国税調査官は、原則として自ら税務調査には行きません。

 

実際に税務調査の現場で個人事業主(法人経営者)や税務調査の立会いをする税理士と対峙するのは、

 

統括国税調査官の部下である上席国税調査官、国税調査官、事務官と言った役職の方です。

 

統括国税調査官は、自らが選定した法人や個人事業主について税務調査を実施するよう部下に指令し、

 

税務調査の進捗状況について部下から相談や報告を受け、今後の税務調査展開等について指示を行う立場の管理職になります。

 

言ってみれば(相当古いですが)ドラマ「太陽にほえろ」のボス(故石原裕次郎さん)のような役どころ、それが統括国税調査官であり、

 

一般の民間企業で言うと課長レベルのポジションに相当します。

 

個人事業主(法人経営者)や税務調査の立会いをする税理士とは、税務調査終盤のまとめの段階になって初めて統括国税調査官に会うことが多いと思います。

 

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税務調査先の選定基準・選び方は?

税務調査先の選定基準・選び方

統括国税調査官は日々職員(部下)管理等の雑多な事務に忙殺されており、昨今は必ずしも税務調査先の選定作業に集中できる状況ではないのが実情です。

 

これを補うために、税務署のパソコンは国税庁の基幹システムであるKSKシステム(※)と繋がっています。

(※)様々な基準に基づき税務調査先の選定支援を行う機能等が実装されたシステム

 

分析内容までは言えませんがKSKシステムにおいては様々な基準により申告内容等の分析を行い、その選定結果を「税務調査必要度」という形で客観的にスコア化しています。

 

比較的経験の浅い統括国税調査官は、このスコアリング結果を税務調査先の選定基準として活用しています。

 

そういう意味では、税務調査先の選び方としては、このKSKシシテムこそが現在の王道となっています。

 

しかしながらベテランの統括国税調査官になると長年の経験に裏打ちされた眼力で税務調査すべき法人(個人事業主)を選定することが多いです。

 

言い換えるとベテラン統括調査官にとっては、客観的な選定基準や選び方があるというわけではなく、

 

自らの経験・眼力こそが税務調査先の選定や選び方の基準であることが多いと思います。

 

私が統括国税調査官だったころは、システムに頼りすぎるとミスリードな結果になるケースが多々あったため、

 

私自身は1件1件丁寧に決算書及や蓄積された各種資料を確認していました。税務調査先の選び方・選定基準としてはかなり手間をかけていました。

 

はっきりと言えるのは、税務調査先を選定する基準(選び方)には経験に裏付けられた秘訣のようなものがあります。

 

客観的なシステムだけでの選定基準(選び方)ですと、税務調査先の選定結果がミスリードなものになるような気がします。

 

 

税務調査先の選び方(選定基準)で最強なのは重要な資料の有無

他の税理士の方から私に対するご質問で多いのが、

 

「税務調査先としてどのような納税者が選定されやすいのですか?具体的な選定基準(選び方)ってあるのですか?」という内容です。

 

このようなご質問に対し私は、

 

「選定基準(選び方)は確かにありますが、それよりも信頼性の高い資料が存在する納税者が最も選定されやすいですよ。」と答えています。

 

ここで言う信頼性の高い資料とは、税務調査の際に活用することで大きな効果が見込まれる重要な資料ということになります。

 

この重要な資料は大切な書類として統括国税調査官が個別管理しています。

 

みなさまも想像付くと思いますが税務調査官が重要と考える資料とは、例えば売上除外や架空原価等の不正計算が強く疑われる情報が記載されたものであり、様々な形で税務調査官が収集したものです。

 

通常これら重要な資料は、個人事業主や法人の方や立会いをする税理士に対し、税務調査官の側から税務調査の場で内容を開示することはありません。

 

たとえば、赤字法人に対する税務調査において、全く実態の無い売上(つまり架空売上)が計上されていたとします。

 

税務調査官がその赤字法人の代表者に聞いたところ、知人の個人事業主から以下のような依頼があったようです。

 

「悪いんだけど、うちから仕事を発注しお宅が仕事を請け負ったことにしてよ。お宅はどうせ赤字なんだから売上を水増計上しても税金払う必要ないでしょ。」

 

このような場合、知人の個人事業主側においてウソの原価(架空外注費や架空仕入)の計上が強く疑われますので、

 

このような話を聞くと、税務調査官は重要な資料を作成し、その資料を個人事業主を管轄する税務署に対し送付するのです。

 

また銀行等金融機関の入出金履歴も重要な資料であることは言うまでもありません。

 

前述しましたが国税局や税務署には金融機関の取引履歴等を確認する専門の税務調査官が存在します。

 

この税務調査官は、日々金融機関に臨場し怪しい入出金事績がある預金者の情報を収集しています。

 

たとえば、事業用の通帳ではなく代表者の妻の個人名義口座に継続的に多額な振込入金があった場合に税務調査官はどう考えるでしょうか。

 

その代表者自身又は代表者が経営する法人の確定申告書上の売上が極端に少ないとしたら、

 

本来売上とすべきものを妻の個人名義口座に振り込んでもらうことで売上除外をしている可能性があります。

 

また、税務署には納税者の方から、書面や直接相談のため来署される等のかたちで様々な情報が寄せられます。

 

真偽の程は色々ですが、法人や個人事業主の不正を白日の下にさらしたいと考える経理担当者もいれば、同業者のライバルによる妬みまで様々です。

 

統括国税調査官による税務調査先の選定基準として、これら資料の有無が大きく関わってくるのは間違いありません。

 

中でも税務調査先の選び方(選定基準)の王道は、間違いなく重要な資料の有無になります。

赤字だと税務調査先の選定基準から外れる?

赤字も税務調査される

税務調査官をしていたころ、税務調査先で時々納税者の方や立会いをする税理士から言われるのが、「なんでうちみたいな赤字の法人(個人事業)に税務調査するの。」という嘆きです。

 

行政コストを考えると、たとえ修正すべき処理があったとしても赤字である限りは追加的な税負担が生じないことから、あまり意味のないことに思えるのでしょう。

 

ただ、法人(個人事業主)によっては、本当は黒字なのに敢えて赤字にしているところもあるのです。

 

また、たとえ法人税や所得税に追加的な税負担が生じなくても、消費税については赤字でも追加的な納税が必要になるケースが多々あります。

 

「赤字だから税務調査先として選定されない。赤字だと税務調査の選定基準から外れるから大丈夫」というのは完全に都市伝説となります。

 

 

消費税還付申告は税務調査の選定基準なの?

結論から言うと多額な消費税の還付申告をした場合、速やかに税務調査の対象として選定される可能性が非常に高いです。

 

もちろん輸出業など業種的に継続的に還付申告になるような場合は除かれますが、

 

「今年は多額の設備投資を実施した。輸出業者でないにも関わらず新たに一定額以上の消費税の還付申告書を提出した。」等の場合は、

 

原則として税務調査の対象として選定される、と覚悟することが必要です。

 

税務調査先の選び方(選定基準)として、消費税還付申告書の提出は相当大きいのです。

 

ちなみにこれは余談ですが、以前は税理士の中に消費税還付をメインで事務所経営をされている税理士事務所がありました。

 

費用や報酬面、実績等詳細は不明ですが、当時は全国対応で幅広く相談を受け付けていたことからそれなりの需要があったのでしょう。

 

しかしながら現在では、度重なる税制改正やあるまじき事件のためそのような税理士事務所の話を全く聞かなくなりました。

税務調査先の選定基準として活用される財務分析

選定基準として連年分析

税務署の税務調査官は、当然ですが過年分を含む財務諸表を分析し、異常な計数がないか確認します。

 

例えば、売上の伸びに比して原価の伸びが著しい、すなわち売上総利益率が低調な場合は売上除外若しくは架空原価が疑われます。

 

また、売上や当期純利益が連年順調に伸びているにも関わらず、所得金額が低調な場合などは、やはりなんらかの意図的な操作が疑われてしまうでしょう。

 

これらの例はどなたでも考えるレベルですが、前述したKSKシステムは様々な観点より財務分析をおこなっており、

 

税務調査先の選び方(選定基準)としてシステムによる財務分析は強力なものとなっているのです。

 

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税務調査先の選定段階で粉飾決算が想定される場合

税務調査に伺った際、時々、冒頭に個人事業主、法人経営者若しくは顧問税理士から、「金融機関からの融資や公共工事を受注するため粉飾決算なのです。」と言われることがあります。

 

これを聞いた税務調査官の心中胸の内ですが、「お話はわかりましたが粛々と税務調査を実施しますので」とは言うものの、確実にモチベーションは下がっているでしょう。

 

普通に考えたら、粉飾決算をしてまで黒字決算にしたいのですから、よもや租税回避や脱税をしたいなどとは考えないでしょうから。

 

粉飾決算のやり方としては、売上の前倒しや原価又は経費の後倒し、棚卸過大計上、など様々です。

 

税務調査先を選定する統括国税調査官からすると、

 

一般的には、減価償却をしていなかったり、連年所得が僅かに黒字だったり、多額な棚卸や売掛金等が連年貸借対照表に計上されていたり、

 

このような法人(個人事業主)については税務調査対象の選定基準から外れる可能性が高いのではないでしょうか。

 

税務調査先を選定する立場の統括国税調査官とお金を貸す立場の金融機関融資担当者とでは気持ち的に共通点が多く、悩みが尽きない気がします。

 

 

税理士(元国税調査官) 佐川洋一

財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。

 

 

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