最近はインターネットを閲覧すると税務調査官が来る前に修正申告書を提出すべき、との情報が氾濫しています。また税理士によっては事前の修正申告を盛んに勧める方がいらっしゃるようです。今回は税務調査前に自主的に修正申告書を提出することの是非について税務調査専門税理士がご説明致します。
■一般的に、税理士事務所はビジネス目的遂行のため事前の修正申告書に前のめり
■税務調査前の修正申告については信頼できる税理士にメリデメの説明を求める
■事前通知が電話でなく書面で実施された場合は『更正を予知』の判断が難しい
税務調査官より電話連絡で調査通知を受けてから実際に税務調査を受けるまでの間に税理士等が事前に修正申告書を提出すると
過少申告加算税が若干軽減され原則として5%になります。ちなみに税務調査を受けてしまうと原則として10%になります。
この点だけを考えると、税務調査前に税理士等に依頼して修正申告書を提出した方が絶対に良いのでは、
と思われがちなのですが実はそう単純でもないのです。この点は後述致します。
ちなみにこの軽減措置を受けるための期限となっている『税務調査を受けるまで』については、とても奥深い議論があります。
例えば税務調査初日の早い時間帯で税務調査官とまだ雑談をしている段階でこっそりと修正申告書をe-Taxで提出したような場合です。
この段階では税務調査には着手しているものの、未だ税務調査官は修正申告に繋がるような問題点を把握していません。
仮にこの段階で修正申告書が提出されたとしても、『更正を予知』して提出されたものには該当しないため
※『更正を予知』とは税務調査官が問題点の端緒を把握し、かつそのことを税理士や納税者においても認識した時点を言います(諸説有り)。
あくまで『税務調査を受けるまでに』提出されたものとして取り扱われるので加算税の軽減措置を受けることができます。
しかしながら判例・裁決、課税庁の税務調査事務運営指針、学説等を総合的に勘案すると、
万全を期して税務調査着手日の遅くとも前日までに修正申告書を提出することが望ましいでしょう。
もっとも実務的には、税務調査着手日の前日ですと税務調査官の気分を害することになるため、
遅くとも一週間前までに税理士等による修正申告書が提出されるべきです。
税務調査前に税理士等が修正申告書を提出するメリットは、前述のとおり加算税の軽減措置が受けられることですが、加えて
■事前に修正申告書を提出した期間は重加算税が賦課決定されない
■税務調査の対象期間として7年遡及される可能性が低くなる
の2点が大きいです。
税理士等が修正申告書を提出すると、その修正申告書が税務調査の対象となりますので、当該修正申告書に仮装隠ぺいの事実が無い場合には重加算税の回避が可能となります。
また私が税務調査立会をした事案では、6年前・7年前に偽りその他不正の行為があるという理由で当該2年分について追加で修正申告書の提出を求められたことはありません。
逆に税務調査前に税理士等が修正申告書を提出した場合の主なデメリットは次の2点と考えます。
■損金(必要経費)の範囲について税務調査官の主観的な裁量が期待出来なくなる
■税務調査前に修正申告書を提出したことでかえって税務調査が厳しくなってしまう
税務調査の実務においては証拠力が大きくないエビデンスだとしても、税務調査官が『合理性有り』と判断すれば損金(必要経費)として追認してもらえるが、
事前の修正申告書を提出した場合には、このような損金(必要経費)の追認は期待できない。
また税務調査前に修正申告書を提出することは法的には問題ないものの、現実的には税務調査官の中には信義則違反と感じる方が少なからずいらっしゃいます。
当税務調査専門税理士事務所においては基本方針として次に該当する場合のみ、税務調査前の修正申告書の提出を選択肢の一つとして提案しています。
■売上除外や架空外注費等重加算税の賦課決定が予想される場合
■損金性(必要経費性)を裏付けるエビデンスの保管が良い場合
上記の条件を満たさないにも関わらず税務調査前に修正申告書を提出してしまうと、
事前に修正申告書を提出せずに税務調査を受けた場合と比べ追徴税額が過大になる傾向があるためです。
この点については十分に説明してくれる税理士を見極めることが必要となりますので、疑問点等ございましたらお気軽にご相談ください。
最後に『更正の予知』に係る留意点についてご説明致します。
具体的には、次の3つのような場合には税務調査前に修正申告書を提出したとしても
『更正を予知して提出されたもの』として扱われてしまうリスクが大きいことから、より慎重な判断が必要となるでしょう。
■事前通知(調査通知)が電話による口頭でなく手紙等で実施されており、問題となる点について具体的な年分や内容の記載がある場合
■取引先等の反面調査を既に受けており、所轄税務署ではないものの問題点が既に税務調査官側に把握されてしまっている場合
■行政指導としての『お尋ねハガキ』に既に回答していることから、既に税務署側に問題点が伝わっている場合
財務省主税局勤務のほか東京国税局管内の税務署統括国税調査官や国税庁主任税務分析専門官等を経て退官。テレビ出演、新聞・雑誌等メディアに掲載多数。
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